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  • 兵庫県臨床心理士会

2023年度「ありふれた臨床」研究会―社会的視点の探索

「ありふれた臨床」研究会―社会的視点の探索


私たち心理士は、日々、それぞれの現場でそれぞれの仕事をしています。個人面接もあれば、集団でのケアもあるでしょうし、心理判定や組織のマネジメントという仕事もあるでしょう。それぞれの現場にはそれぞれの社会的要請があり、地域の特性があり、そして臨床の知があるはずです。

これらの多くが臨床心理学のテキストや論文において言葉にされていません。私たちの学問は密室で行われる個人心理療法に焦点を当てがちで、現場の都合で融通無碍に運用される心理的援助をうまく語ることができずにきたからです。この日常的に行っているローカルな実践を――統制化された手続きを踏む特殊な○○療法などではないという意味で――「ありふれた臨床」と呼びたいと思います。


本研究会は、各々の現場で実践している「ありふれた臨床」を語るための言葉を作り出すことを目的としています。 身体的には宿っている臨床の知を、言葉にすること。それは臨床を力強くします。自分が何をしているのかが明晰になることは、専門家としての私たちを支えてくれます。それだけではありません。臨床の知が言葉になると、それを他者に伝えることができるようになります。心理職同士はもちろん、他職種の同僚、地域のステークホルダー、そして社会へと言葉は伝播していきます。それが本や論文という形をとることもあるでしょう。


このとき、私たちが導入したいのが「社会的視点」です。これを東畑は「臨床心理学の社会論的転回」(東畑、2020,2022)と呼んで、理論的な探求を続けてきました。それは様々な心理的支援を心理学理論だけではなく、社会的な枠組みからも理解することを目論む方法論です。そこでは、心理学の様々な理論のみならず、社会学や人類学、哲学や経済学など様々な隣接領域の視座も援用するのが特長です。 例えば、『居るのはつらいよ』(東畑、2019)では、一心理士が体験したデイケア臨床での居心地悪さから出発し、「新自由主義社会」という文脈に載せることによって、「ケア」の意義を再発見しました。これは、具体的な臨床経験の記述を社会論的転回の視点から考察し、最終的により一般化された理論(ケア理論およびセラピー理論)を提示したと要約できます。


本研究会では最初にこれらの社会的視点を導入したありふれた臨床のための理論、研究法、技法を講義によって示したいと思います。そのような道具を得て、津々浦々で実施されている「ありふれた臨床」の社会的な文脈を明らかにし、参加者が新しい言葉を作りだすことができればと思います。この点で一般的な研修会で行われているような、実践の改善や修正を目論むことではなく、既に行っている実践を異なる視座から照らし直し、新たな「問い」を生み出すことを目指すのが本研究の基本的な姿勢です。


加えて、本研究会では、そのような学問的目標だけでなく、それを下支えするコミュニティ機能の提供も目指しています。心理職の仕事はなかなか目に見えて数値化できるような結果を生み出すことはできません。すると、「自分のやっていることは本当に意味があるのだろうか」という思いをいだくことも稀ではないでしょう。 そうした状況を、ひとりで生き延びることは難しいものです。仕事の意義を他者から認められ、承認されることがぜひとも必要です。しかし、実際には心理職は横のつながりに乏しく、孤立しがちであるという現状があります。

各回後のアフタートーク、オープンセミナー(とその後の懇親会)やグループチャットなどで、そうしたつながりのプラットフォームになれればと思っています。


本研究は二年目です。一年目で得た成果は最初の三回の講義に反映させますので、はじめての参加でも全く問題ありません。

実験的な面もありますが、「ありふれた臨床」に日々従事されていて、その意義を実感されている方々、その価値を問い直し世間に向けてゆくゆくは発信してゆきたいと考えられている方々の応募をお待ちしています。


○研究会の開催形式

・zoomを使ったオンライン形式(8月と12月はお休み)

・毎月第4金曜日20時~22時開催

・年間計10回開催(講義3回+臨床研究5回+オープンセミナー1回+ふりかえり1回)  

*講義回は見逃し配信いたします。オープンセミナーもその予定です。


○スケジュール予定

① 4/28 講義とディスカッション「ありふれた臨床とは何か―そして、臨床エスノグラフィーという方法論」

② 5/26 講義とディスカッション「ありふれた臨床の社会的視点について―臨床心理学の社会論的転回」

③ 6/23 講義とディスカッション「ありふれた臨床の技法論―ふつうの相談」

④ 7/28 臨床研究

⑤ 9/22 臨床研究

⑥ 10/27 臨床研究

⑦ 11/24 臨床研究

⑧ 1/26 臨床研究

⑨ 2/23 (祝) オープンセミナー「心理学化する社会における専門家とは何か」(昼から夕方にかけてハイブリッドで開催。大阪大学大学院人間科学研究科准教授 山田陽子先生をお招きします。臨床研究の発表者が推敲したものを発表してもらうことを考えています)

⑩ 3/22 ふりかえり


○参加資格

「臨床心理士」もしくは「公認心理師」の資格保有者、あるいは臨床心理学系大学院に在学中か卒業後すぐの人で守秘義務を守れる方

*臨床現場や実践内容は問いません。様々な現場で活動されている方、様々な実践を行っている心理士を歓迎します

*臨床心理士指定大学院で習得する知識を前提とした研究会となりますので、ご承知おきください

*臨床研究の発表者を募集します(薄謝ですが、謝金をお支払い致します)


○応募 

以下から


○参加費 

25,000円(全10回分、一括払いのみ)  

*2022年度より継続参加の方は20,000円 振り込み方法は、参加資格を確認し次第ご案内致します 一度納入された参加費は原則お返しできません


○締め切り  2023年3月31日


○主催者

東畑開人

京都大学教育学部卒業、京都大学大学院教育学研究科博士後期課程修了

博士(教育学) 、臨床心理士、公認心理師

白金高輪カウンセリングルーム主宰 主な著書訳に『野の医者は笑う―心の治療とは何か』(誠信書房)、『日本のありふれた心理療法―ローカルな日常臨床のための心理学と医療人類学』(誠信書房)、『居るのはつらいよ―ケアとセラピーについての覚書』(医学書院、大佛次郎論壇賞受賞、紀伊国屋じんぶん大賞受賞)、『心はどこへ消えた?』(文藝春秋)、『なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない』(新潮社)、『聞く技術 聞いてもらう技術』(ちくま新書)、デイビス『心理療法家の人類学―心の専門家はいかにして作られるのか』(誠信書房、監訳)、ロバートソン『認知行動療法の哲学』(金剛出版、監訳)など


山崎孝明

上智大学文学部卒業、上智大学博士後期課程総合人間科学研究科心理学専攻修了

博士(心理学)、臨床心理士、公認心理師

2020年、日本精神分析学会奨励賞山村賞受賞現在、こども・思春期メンタルクリニックや都内私立中高一貫校のスクールカウンセラーとして勤務。主な著訳書に、『精神分析の歩き方』(金剛出版)、『子どもの精神分析的セラピストになること』(金剛出版、分担執筆)、『実践力動フォーミュレーション』(岩崎学術出版社、分担執筆)、『フロイト技法論集』、『フロイト症例論集2―ラットマンとウルフマン』(共に岩崎学術出版社、共訳)など

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